エルメス財団は、自然素材に関わる職人技術や手わざを伝承、拡張、共有することを目指す「スキル・アカデミー」として、2025〜2026年の2年間は「金属(メタル) 」をテーマに活動を展開しています。
金属は、はさみ、機械、建物など私たちの生活に欠かせない素材でありながらも、自然の中にある身近な素材として感じることは少ないのではないでしょうか。地球上にある全元素のうち約80%を占めると言われ、⻘銅器時代から現代まで人類の文明と共に歩んできた金属は、原材料となる鉱物や加工技術の多様性、そして解釈の両価性といった特有の性質を持っています。
本企画「夏のオープンクラス」 は、2026年の春と夏の2つのピリオドで、金属のものづくりに間近に触れ、素材の本質に迫る体験プログラム「金属に学ぶ、五感で考える」の一環として、中高生を対象に開催した「春のワークショップ」の報告展示を入り口に、実験的な手つきで金属と対話を行う3組のアーティストによるグループ展「結合」を通して、より多くの方々と金属について探求を深める学びのプラットフォームを目指します。目で触れる展示に、手や耳で考えるワークショップやトークなどの体験イベントを組み合わせながら、金属の自在で多様な表情(テクスチャ)をみなさまと共に発見し、金属との関わりを再構築することを目的としています。
「夏のオープンクラス」の中心となるグループ展「結合」は、金属のミクロな構造やメカニズムの探究によって進化してきた科学・技術史を参照しながら、実験的な手つきで金属と対話を行う3組のアーティストの実践を通して、金属と身体の連鎖的な「結合」の在り方を探るものです。
前近代的な知識や見過ごされてきた技法に、人間以外の存在との関係性を変容させる「想像の道具」としての可能性を見出すレオノール・セラーノ・リヴァスは、無機物(金属)と有機物(植物)が結合したハイブリッドな生態系へと観客を誘います。電解溶液の中で金属の被膜を生成する電気鋳造を応用することで、朽ちゆく植物の身体を、金属の「第二の皮膚」で保護し、金属が植物を宿主として結晶化する様を作品とします。過去の時間が凝縮された鉱物から精製された金属は、再び鉱物という自然界へと永い時間をかけて還っていき、その時間の蓄積がひとつの生を超えたフォルムとして立ち上がるように見えます。
ハイブリッドなリヴァスによる植物の傍らで、金属の甲羅に覆われたPlayfoolによるカメ型ロボットは、周囲の環境に呼応しながら自律的に動き、私たちに接近します。カメに手で触れ、コミュニケーションを図ろうとする時、私たちは電気や電子機器を通して、目に見えない金属のふるまいに日常的に関わっていることに気づかされます。
また、熱を加えられることで金属原子から分離した電子は、その不安定な状態から安定した軌道に戻ろうとする瞬間に金属固有の「色(光の波⻑)」として知覚されます。この炎色反応の原理を応用したのが花火です。また、花火に欠かせない火薬の主成分である硝石が採取できなかった日本ではかつて、土壌中の微生物の働きによって有機物とカリウム(金属)を結合させることで硝石を製造してきました。花火師としても活動する島田清夏は、魔除けや祝祭、鎮魂など人々の様々な想いを投影する求心的なスペクタクルとなってきた花火の背景にある物質性を問いかけます。
これらのミクロな電子のふるまいからもたらされる多様な作品たちは、相反する要素においても互いを変容させ、錯りあうことができる開かれた素材としての「金属」の姿を表しています。金属と非金属、人工と自然、生命と非生命などの結合は、一見対立するものが、互いの可能性を補完しながら、共にひとつの新たな現象や環境を作り出す、不可分な存在であることを私たちに意識させることでしょう。
REPORT OF SPRING WORKSHOPS
中学生・高校生向け「春のワークショップ」の報告展示
2026年春の5日間、10組の様々な専門家を迎え、中学生・高校生のみなさまと共に、橋、タワーなど人間の身体スケールを超えたものづくり、はさみ(道具)や時計など職人の手わざ、また、彫刻、ダンス、音楽といった芸術表現を通して、「金属のスキル」の入り口に立った春のワークショップの成果を、体験を通して紡ぎだされた言葉、実際の道具や記録映像とともに報告します。
EVENTS
関連企画
WORKSHOPS
ワークショップ:素材がジュエリーになるまで
鍛金を知っていますか。金属を叩いて延ばし、形を作る技法です。
このワークショップでは、金属線や金属板が、チェーンやモチーフとなり、そして身につけられるジュエリーになるまでをジュエリー・デザイナーの奥山慎さんと一緒に体験しましょう。
講師:奥山慎(ジュエリー・デザイナー)
日時:2026年7月25日(土)13:00 〜 16:00 2 2026年7月26日(日)13:00 〜 16:00
対象:10歳以上
人数:各回15名程度 ※工具をつかった作業が発生する可能性があります。
申込:2026年6月19日(金)から/抽選制
申込方法 :こちらよりお申し込みください。
GUIDE TOUR & OTHER EVENTS
展示ガイドツアー
申込不要、出入り自由のガイドツアーです。解説を通して金属を身近に感じましょう。
日時: 毎週 金・土・日曜日 16:30 〜 17:00
対象:10歳以上
申込:不要
今後予定しているイベント
・アーティスト・トーク:レオノール・セラーノ・リヴァス 7月18日(土) 14:00〜15:10
・アーティスト・トーク:Playfool 7月19日(日) 14:00〜15:10
・金属で遊ぶ体験イベント(申込不要): 8月2日(日)、9日(日)
・花火ワークショップ
詳細決定次第、ウェブサイト内にてご案内します。
ARTISTS

レオノール・セラーノ・リヴァス Leonor Serrano Rivas
1986年、マラガ(スペイン)生まれ。同地を拠点に活動。前近代的な知識や見過ごされてきた技法に関する研究から始まり、彫刻、映像、舞台美術の狭間で、非線形で流動的な夢の領域へ誘うように、虚構と現実の境界を曖昧にする空間体験を構築する。作品は個別のオブジェクトとしてではなく、道具のようにふるまい、物質、光、時間が相互に作用し、変容するプロセスを活性化させながら、空間、イメージ、構造、そして身体の階層関係を解体し、不安定かつ開かれた知覚を生成させる環境として機能する。近年の主な個展に、「Here Be Dragons」(Carlier |Gebauer、ベルリン、2025)、「Para un ser sumergido」(Le Lait Centre d’Art、アルビ、フランス、2025)、「Natural magic」(ソフィア王妃芸術センター、マドリード、2022〜23)など。スレード美術学校で博士号を、ゴールドスミス・カレッジで美術学修士号を取得。

Playfool
ダニエル・コッペン(ロンドン生まれ)とマルヤマ・サキ(福島生まれ)によるアート・デザインユニット。現在はロンドンを拠点に活動。
あそびを媒介に、人間の主体性とテクノロジーとの変わりゆく関係性に介入しながら、実験的なゲームやインタラクティブなインスタレーションといった参加型の作品形式で、鑑賞者と共にテクノロジーを想像し直すような体験をつくる。 Science Gallery (モンテレイ、メキシコ、2025)、アルスエレクトロニカ(リンツ、オーストリア、2024)、V&A Museum (英国、2022)など世界各地で作品が紹介されている。
CCBT(Civic Creative Base Tokyo)2023年度フェローシップ。

島田清夏 Sayaka Shimada
東京生まれ。同地を拠点に活動。大学で映像を学ぶ過程で花火と出会い、卒業後は花火師として活動。花火の物質性・火薬学・文化的背景に至る領域横断的な研究を通じて、メディウムの再構築による新たな問いを提示する。花火の他にも、火・雷・放射線・水などの現象をモチーフに作
品制作を行っている。東京藝術大学大学院で博士課程修了。近年の主なグループ展に、「文化庁メディア芸術支援事業成果展」(東京、2026)、「ATAMI ART GRANT 2022」(静岡、2022)、「第12回恵比寿映像祭 -時間を想像する-」(東京、2020)など。野村美術賞受賞(2026)。また、国内外の花火大会に演出家として参加しており、2025年にはドイツ開催の国際花火競技会で優勝。
SCENOGRAPHY
奥山慎 Shin Okuyama
ジュエリー・デザイナー。1982年、⻑崎生まれ。同地を拠点に活動。伝統的な技法や手仕事を軸に、素材とのコミュニケーションから生み出されるそのフォルムには、素材や身に纏う人のアニマを内包しながら解放する、オブジェとしての重厚感と現代的な軽やかさが共存する。東京藝術大学工芸科卒業。
IMAGES
Leonor Serrano Rivas, Where We Expect to Find Flowers n3, 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Roberto Ruiz
Leonor Serrano Rivas, Installation view of Here Be Dragons, 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Andrea Rossetti
Leonor Serrano Rivas, Where We Expect to Find Flowers n17, 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Roberto Ruiz
Playfool, Installation view of a re(imitation) of Life, 2024
Courtesy of the artist
Photo: Naoya Toita
Sayaka Shimada, Fireworks for another world that never came , 2022
©Sayaka Shimada
Sayaka Shimada, here/there, 2025
©Sayaka Shimada
Sayaka Shimada, R9+C9QP, 2020
Courtesy of the artist
Photo: Great the Kabukicho
エルメス財団
「私たちの身振りが、私たちをつくり、私たち自身の鏡となる」。
エルメス財団は2008年の設立以降、この理念をすべての活動の原動力として歩んできました。これらは、一人一人の行動が、私たち全員の成⻑や幸福をもたらすという信念に基づいています。エルメス財団の支援は、明日の世界を築くため、芸術分野における新しい創造、技術やスキルの伝承、環境保護、そして社会的連帯の促進という4つの柱のもと、独自のプログラムを通じて行われています。これらの活動は、共有の知識を育み、より広い公益のための進歩を促し、現代社会の中心に人道的価値を確立したいという、私たちの根本的な姿勢を反映するものです。2016年に理事⻑に就任したオリヴィエ・フルニエ、2021年からディレクターを務めるローラン・ペジョーのもと、エルメス財団は現在、5年毎の任期の第4期目の活動を行っており、2023‒28年期の予算は、6300万ユーロです。
スキル・アカデミー
スキル・アカデミーとは、自然素材に光を当て、それに関わるスキル(職人技術や手わざ)の伝承、拡張、共有を目指すエルメス財団のプログラムで、2014年よりパリで開催しています。現在までに「木」「土」「金属(メタル)」「布」「ガラス」などをテーマとし、素材の組成や技術、文化などを多角的に探究してきました。日本での活動は2021年よりスタートしました。木(2021〜2022年)、土(2023〜2024年)に続く3つ目の素材として、「金属(メタル)」をテーマとする2025〜2026年は、書籍『Savoir & Faire 金属』の出版、展覧会、ワークショップの開催など様々な体験を通して、広い観客層のみなさまと、一緒に探求を行っています。特に日本独自のプログラムである「春のワークショップ」、「夏のオープンクラス」では、素材との持続可能な関係を築く力を養い、身体的な感性を豊かに育み、柔軟で展開力のある探究心と批判的に思考する力を育む機会を提供していきたいと考えています。
スキル・アカデミー「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」
2026年7月15日(水)〜8月16日(日)
開館時間:11:00〜19:00
休館日:月曜日・火曜日 ※ただし、7/20(月・祝)、8/11(火・祝)は開館
会場 :SKAC (SKWAT KAMEARI ART CENTRE) 東京都葛飾区⻄⻲有3-26-4
主催 :エルメス財団
















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