【Pace ギャラリー】ナイジェル・クック「Night Ruins」展を開催

Pace 東京では、2026 年 8 月 28 日から 10 月 10 日まで、ナイジェル・クックによる新作絵画の展覧会「Night Ruins」を開催します。クックにとって東京での初めての個展となる本展では、イタリア・ヴェネツィアのクエリーニ・スタンパリア財団が行った初のアーティスト・レジデンシー滞在中に制作された、独特な空気感をたたえた小規模作品が展示されます。

Nigel Cooke, The Island, 2026 © Nigel Cooke, courtesy Pace Gallery

美術史への深い造詣に根ざした制作で知られるクックは、現代イギリス絵画の発展において重要な位置を占める作家です。2026 年春、クエリーニ・スタンパリア財団のレジデンシーに参加したことで、クックはヴェネツィアという場所に創作のインスピレーションを見出してきた数多くのアーティストたちの系譜に加わりました。水上都市ヴェネツィアと、その歴史的なラグーンや運河、唯一無二の光に没入する機会となったこのレジデンシーでの体験は、クックに豊かな制作環境をもたらしました。パラッツォの歴史・文化的遺産、そして現在も息づく都市の営みに着想を得て、クックは繊細なニュアンスと豊かな色彩に彩られた一連の絵画を制作しています。

「Night Ruins」は、第 61 回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展に合わせて開催中の、エヴェリン・C・ハンキンズのキュレーションによる展覧会「Bad Habits」をさらに発展させるものです。「Bad Habits」では、これらの作品群の一部が、実際の制作の場となった建物内で展示されています。日本で開催される本展は、同シリーズからさらに幅広い作品を紹介するもので、現代都市・東京を背景に、作品が内包する時間との重層的な関係性と、力強く謎めいた精神性が際立つ構成となっています。

クックはこのように述べています。「この一連の作品は、私が取り組んできた中心的な関心に対する別の視点を示すものであると同時に、Bad Habits の大型作品が生み出す空間を捉え直すものでもあります。それらは一つの源泉から流れる支流であり、一つの全体から分かれる断片なのです」。これらの絵画は、ヴェネツィアとの日記的な対話であるかのように、互いのつながりを保ちながら展開し、時間の経過とともにフォルムが反復し、次第に消えゆくような緻密な構成を織りなします。ハンキンズは次のように記しています。「いかに抽象的に見えようとも、これらの作品は常に具象性に根ざしています。最終的なカンヴァスの上では、潜在的、または一過性の具象性であったとしても、それが完全に消し去られることはないのです」。

アリーナを思わせる夜の情景を描いたこれらの作品は、イタリア滞在中にクックが深く向き合ったジョヴァンニ・ベッリーニの作品との密接な関係性から生まれたものです。その構成は、船着場や路地、そして亡霊が集うかのような広場によって形作られる、ヴェネツィア特有の室内空間に似た都市構造を彷彿とさせます。それらは、到着と出発が交錯する中で、人々の身体や生命、歴史が境界を越えて移動する様子を示唆しています。ラグーンの水平線を背景に置かれた石の台座や壇のような形態が繰り返し現れ、うごめくような自然の塊を宿す場所となっています。そこには動物や人物の断片が溶け合うように入り込み、線と形の集積を生み出しています。それはまるで、自らの存在を生成しながら、消失させるかのように立ち現れては消えていきます。クックが描くのは、残骸であると同時に再生の可能性を秘めた、そこから新たな道筋が立ち現れる廃墟なのです。

ヴェネツィア滞在中、クックはその特徴的な石造りの迷宮や窓にも魅了されました。「一貫したサイズで制作されたこれらの絵画は、ヴェネツィアで展開していった私の絵画制作のプロセスを覗き見るための窓のようなものです」とクックは語ります。「これらの作品は、変化していく私の問題意識や展開するアイディアを記録し、そこに浮かび上がる瞬間を捉え、将来参照するためにそこに留めておくものです。と同時に、制作過程においては、明確に開かれた余地が保たれています」。クックの作品に見られる新鮮さと臨場感は、アカデミア美術館(ヴェネツィア)で修復を終えたばかりのティントレットの絵画群から部分的に着想を得ています。自由な筆致で描かれ、聖書をテーマにした作品群の一つである《動物の創造》(1551-52 年頃)では、ダーウィンの進化論を予見するかのように、数多の生き物が海から這い出てくる場面が描かれています。この作品の持つ臨場感と視覚的な喜びは、クックの小規模絵画を生み出す上での感情的な原動力となり、その制作過程を方向づけるとともに、神話から自然が立ち現れるという概念を際立たせています。それは、絵画というものが生み出される行為そのものにも似ているのかもしれません。

これらの絵画に伴い、「Night Ruins」では《Sea Mirror》シリーズから紙にグワッシュで描いた作品群も展示されます。
スペインのフォルメンテーラ島で制作されたこれらの作品は、素材として海水を取り入れており、それぞれの作品には地中海の精神とリズムが吹き込まれています。ヴェネツィアの作品と同様、場所との深い結びつきを持つこれらの作品は、特定の土地から得た印象を、時間とともに変容と反復を重ねる独自の造形言語へと昇華させる、クックの一貫した制作の姿勢を物語っています。

また、今年初めのアート・バーゼルで展示された《Nemesis》(2026 年)と題された関連作品は、9 月 1 日より東京のUESHIMA MUSEUM で開催されるグループ展に出品されます。

Nigel Cooke(1973 年、イギリス・マンチェスター生まれ)は、具象的なフォルムと抽象的で根源的な空気感を融合させた、豊かな喚起力を持つ作品で知られる画家です。1990 年代後半から、クックは具象絵画の世界を押し広げ、多様性に満ちた唯一無二の作品群を制作してきました。近年は、これまでの自身の実践を見つめなおし、幅広い関心の領域を探求するための、より簡潔で凝縮された絵画言語へと向かっています。古生物学、神経科学、古典神話、動物学などさまざまな分野から影響を受けてきたクックの最近の絵画における線の構成は、脳の神経回路、人間や動物の身体、風景の形成を想起させます。クックは、心と身体、人間の脳と自然界といったよく知られる二項対立を、一つの大きな流れのような動きの中に織り込むことに関心を持っています。彼の有機的な抽象表現には、哺乳類や地質学を思わせるたくさんの断片が組み込まれており、イメージには不安定さと動きが生まれると同時に、幅広い自然の連想の中に曖昧な関係性が生み出されています。

クックは 1997 年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号を取得。2004 年にはロンドンのゴールドスミス・カレッジを卒業し、哲学の博士号を取得しています。論文ではジョルジュ・バタイユ、ミシェル・セールらの思想における非線形システムについて論じました。クックの作品は、オスロ現代美術館アストルップ・ファーンリー美術館、ロンドンのブリティッシュ・カウンシル・コレクション、ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のハマー美術館、テヘラン現代美術館、ロサンゼルス現代美術館、ニューヨーク近代美術館、ロンドンのテートなど、世界各地の数多くのパブリック・コレクションに収蔵されています。

Pace ギャラリーについて

Pace は、1960 年の創設時に掲げた基本理念に基づき、未来志向の活動を続けるグローバルなアートギャラリーです。
アーティスト、エステート、そしてコレクターのニーズに的確かつ柔軟に応えながら、一貫したミッションに沿った活動を行っています。

およそ 80 名のアーティストと協働する Pace は、個々のアーティストおよびエステートの成長と発展を目指すユニークなアプローチを行っており、その多くとは数十年にわたるパートナーシップを築いてきました。新進気鋭のアーティストから、歴史的評価が定まったアーティストまで、世代を超えた面々が共通する系譜を軸に結集し、現代のアーティストとその源流となる先達との対話が生み出されています。世界各地で展開される充実した展覧会プログラムは、現代美術と 20 世紀を代表する巨匠たちの作品との結びつきや対話を際立たせるものとなっています。

Pace の根幹にあるアーティスト・ファーストの理念は、制度や仕組みではなく、人と人との関係性をもっとも重視しています。リソースを戦略的に活用しながら、柔軟かつ機敏にさまざまなプログラムを展開しています。その活動は展覧会のみならず、パブリックインスタレーション、慈善プロジェクト、パフォーマンス、さらには学際的なプログラムへと広がりを見せています。Pace は創設以来の実績と、数十年におよぶアーティストとの信頼関係を基盤として、アメリカ国内のみならず世界各地における主要なパブリック・コレクションおよびプライベート・コレクションの形成に重要な役割を果たしてきました。さらに、出版部門 Pace Publishing を通して、モノグラフや特装版アーティストブックなど、1,000 点を超える刊行物を世に送り出し、アーティストのレガシーや学術的研究の発展に寄与してきました。

現在、Pace は世界 9 都市に拠点を構え、それぞれの地域のコレクター層の特性を尊重しながら、各地域の歴史に根ざした活動を行っています。こうした地域性とコミュニティへの取り組みを担うのが、ニューヨーク・マンハッタンの 8 階建てのメインギャラリー(540 West 25th Street)と、チェルシー地区に位置するおよそ 8,000 平方フィートのギャラリー(510 West 25th Street)の展示空間、さらにはトライベッカに設けられた実験的プロジェクトスペース「125 Newbury」です。125 Newbury では、アーニー・グリムシャーが率いる展覧会プログラムのもと、新進のアーティストによる革新的な展覧会に加え、歴史的作家の実践を新たな視点で捉えるキュレーション展が積極的に展開されています。

また、Pace はカリフォルニアでも 60 年にわたる歴史を持ち、2022 年にはロサンゼルスに西海岸の旗艦ギャラリーを開設しています。加えて、ロンドン、ソウル、ベルリン、東京でもギャラリーを運営しています。Pace は、中国で本格的な活動基盤を築いた国際ギャラリーの草分け的存在であり、2008 年に北京の活気あふれる 798 芸術区に進出して以来、積極的に活動を展開しています。現在では、北京、香港、さらにはジュネーヴにもオフィスを構えています。

Pace の歴史には、常に革新と協働の精神が織り込まれています。これは、ギャラリー創設時に、創業者の名前を冠さず、独自の名称をギャラリー名に選んだことにも表れています。また、今日のギャラリーのあり方を形づくってきた数多くの先駆的な取り組みを実践してきたことも明確に表れています。その歴史は、大規模な国際ギャラリーという先駆的モデルを築き、美術市場に決定的な影響を与えたアーニー・グリムシャーから、新しい戦略や革新的な企画を取り入れてギャラリー活動の可能性を押し広げたマーク・グリムシャー、そして協働関係を重視するプログラムの発展に貢献してきたサマンサ・ルベルへと続いています。2025 年には、グローバル規模でセカンダリー・マーケット販売に特化したブティック型のギャラリーモデル、ペース・ディ・ドンナ・シュレーダー・ギャラリーズを立ち上げ、パートナーとなりました。この取り組みにより、歴史的作品の販売と管理において新たな道を切り開いています。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

泊まってみたい憧れの宿

週末のとっておきレシピ

お仕事マッチング

NEW

  1. 2026年9月3日(木)、渋谷ヒカリエ ホールBにて、台湾紡拓会(Taiwan Te…
  2. GFCによるRFWT 2027年春・夏コレクションのショーでは、多様な国際的デザイナ…
  3. 2026年9月4日(金)から6日(日)までの3日間、池袋・サンシャインシティを中心に…

アーカイブ

PAGE TOP
Translate »