Pace 東京では、2026年4月16日から6月17日までロバート・ロンゴの新作および近作の木炭ドローイングと彫刻の展覧会「Angels of the Maelstrom」を開催しています。ロンゴにとっておよそ30年ぶりの日本での個展となる本展では、日本とアメリカの文化的影響や交流、そして両文化が彼の作品形成にどのように関わってきたかを考察します。彼の日本での最後の個展は、1995年に東京の伊勢丹美術館で開催された回顧展であり、その後、足利市立美術館とKPOキリンプラザ大阪に巡回しました。

この10年間、ロンゴはメディアに登場するイメージへの関心を一層深めており、その中には2021年1月6日のアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件やブラック・ライヴズ・マター運動に関する一連の報道も含まれます。光と影に細心の注意を払いながら、白黒のハイパーリアルな木炭ドローイングを幾重にも重ねて描き、報道写真やインターネット上の抗議活動、社会的混乱、戦争のイメージをもとに、細部まで描きこまれた作品を展開しています。参照するイメージを壮大なスケールと感情に強く訴えかける構図に変換しながら、ロンゴは権力、暴力、そして国家的神話の形成について考察しつつ、同時に未来への希望を打ち出しています。


Pace 東京での展示に向けた制作において、ロンゴはパウル・クレーの水彩モノプリント《Angelus Novus》(1920年)に着想を得ています。これは、好奇心に満ちた天使が宙に浮かび、羽ばたこうとしている、あるいは降伏しようとしている様子を描いた作品です。この作品をかつて所有していたドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミンは1940年の論文「歴史の概念について」において、この天使を未来の証人である「歴史の天使」として言及し、このように記しています。「彼は顔を過去へ向けている。[…]だが、楽園からは嵐が吹きつけていて、その風が彼の翼に孕まれている。しかも、嵐のあまりの激しさに、天使はもう翼を閉じることができない。この嵐が彼を、彼が背を向けている未来へと抗いがたく追い立てていく」。

ロンゴは砕ける波、海に沈むクジラ、咲き誇る牡丹など、多様な象徴的なイメージを取り込みながら、文化を横断する寓話的な神話と古代の原型について探究します。ギャラリーの2つのフロアにわたる展示の中心となるのは、《無題(American Samurai)》と題された、ロサンゼルス・ドジャースのスパースター大谷翔平を描いたドローイングです。ロンゴにとって典型的なアメリカの娯楽である野球の世界で活躍する日本人選手としての大谷は、2つの文化の交錯を強く物語る存在なのです。

この他、牙を剥き出した迫力のあるトラの肖像、葛飾北斎にインスパイアされたうねる波、霧に包まれた山並み、咲き誇る花々など、自然界を主題とした作品に加え、ジョン・F・ケネディや、ジャッキー・ケネディ・オナシス、そしてエルヴィス・プレスリーといった20世紀アメリカのアイコニックな人物像を描いた新作のドローイングも発表されます。

1953年にニューヨーク州ブルックリンで生まれたロンゴは、若い頃から社会的・政治的課題に深く影響を受けてきました。1970年、オハイオ州ケント大学でカンボジアへのアメリカの侵攻に抗議していた学生たちをオハイオ州兵が銃殺した事件の数週間後に高校を卒業しました。その中にはロンゴの元同級生も含まれており、その遺体が写り込んだ報道写真はピューリッツァー賞を受賞し、世界に衝撃を与えました。ロンゴは1973年にバッファロー州立大学に進学し、彫刻を学びます。のちに長年の友人となるシンディ・シャーマンとはこの頃に出会っています。二人は1977年にニューヨークに移り住み、その後1980年代にロンゴはリチャード・プリンスとともに組んだバンド、メンソール・ウォーズとしてニューヨークのロッククラブで頻繁にパフォーマンスを行います。またこの時期、さまざまなバンドのアルバムジャケットのデザインを手がける他、ニューオーダーやR.E.M.のミュージックビデオの監督も務めています。

1981年にニューヨークのメトロ・ピクチャーズで開かれた初めての個展では、木炭とグラファイトのドローイングシリーズ、《Men in the Cities》を発表。これらは「ピクチャーズ・ジェネレーション」と呼ばれるグループの象徴的な作品となりました。ロンゴ、シャーマン、プリンスの他、ルイーズ・ローラー、デイヴィッド・サルを含むこのグループは、その芸術を通して消費資本主義の感覚麻痺や、マスメディアの洗脳的な影響を批評しました。多種多様な素材を用いながら年を追うごとに壮大なスケールの作品を制作していったロンゴは、この世代のアーティストを代表する存在として確固たる地位を築きました。現在、ロンゴの作品はニューヨーク近代美術館、ホイットニー美術館、ブルックリン美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アート、ミルウォーキー美術館、ミネアポリスのウォーカー・アート・センター、ロンドンのテート、アムステルダムのステデリック美術館など、世界各地の主要な美術館コレクションに収蔵されています。
Robert Longo: Angels of the Maelstrom
ロバート・ロンゴ: 「Angels of the Maelstrom」
2026年4月16日(木)– 6月17日(水) Pace ギャラリー 東京都港区虎ノ門5-8-1
麻布台ヒルズ ガーデンプラザA 1-2 階
Robert Longo(1953年、ニューヨーク州ブルックリン生まれ)は、ニューヨークを拠点に活動しています。1975年、ニューヨーク州立大学バッファロー校で美術学士号(BFA)を取得。主な個展に、「Robert Longo: the Freud drawings」(ハウス・ランゲ/ハウス・エスタース、ドイツ・クレーフェルト、のちにアルベルティーナ美術館、ウィーンへ巡回、2003年)、「Robert Longo: The Capitol Project」(アルドリッチ現代美術館、コネチカット州リッジフィールド、2013年)、「Robert Longo: The Destroyer Cycle」(メトロ・ピクチャーズ、ニューヨーク、2017年)、「Robert Longo: Storm of Hope: Law & Disorder」(パームスプリングス美術館、カリフォルニア、2021年)、「Robert Longo Drawings: Engines of State」(ナショナル・ギャラリー、ワシントンD.C.、2023年)、「Robert Longo」(アルベルティーナ美術館、ウィーン、2024年、のちにルイジアナ近代美術館、デンマーク・フムレベックへ巡回、2025年)、および「Robert Longo: The Acceleration of History」(ミルウォーキー美術館、ウィスコンシン、2024〜25年)など。ロンゴの作品は、アルベルティーナ美術館(ウィーン)、シカゴ美術館、ポンピドゥー・センター(パリ)、ケンブリッジのハーバード大学美術館(マサチューセッツ)、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ニューヨーク近代美術館など、世界各地のコレクションに収蔵されています。

Pace ギャラリーについて
Paceは、20 世紀および 21 世紀の最も影響力のあるアーティストとエステートを扱う国際的なアートギャラリーであり、1960 年にアーニー・グリムシャーによって設立されました。アレクサンダー・カルダー、ジャン・デュビュッフェ、アグネス・マーティン、ルイーズ・ネヴェルソン、マーク・ロスコといった作家との長年にわたる関係を築いてき た Pace には、抽象表現主義、ミニマリズム、ポップアートやライト・アンド・スペース運動における中心的なアーティストを初期から支援してきた という独自の歴史があります。現在、設立から65年以上を迎え、これらの伝説的なアーティストや遺作管理団体との長期的な関係を継続しながら、 パム・エヴェリン、リ・ヘイ・ディ、ローレン・クインに加え、ロイ・ホロウェル、カイリー・マニング、ロバート・ナヴァ、アダム・ペンドルトン、 マリーナ・ペレス・シマオ、アニカ・イなど実績のある現代アーティストの紹介にも注力しています。
近年Paceは、CEO であるマーク・グリムシャーと社長のサマンサ・ルベルの主導のもと、未来志向のギャラリーとして地位を確立しています。創設以来、世界各地の主要なパブリックおよびプライベート・コレクションの形成と発展において重要な役割を果たしてきました。20世紀の名作から現代美術まで、幅広い作品を網羅する充実したグローバルな展覧会プログラムや、長い歴史を持つ出版部門Pace Publishingによる学術的プロジェクトを通じて、世代を超えたアーティストたちに共通する系譜に光を当てています。Paceの作家第一の精神は、パブリック・インスタレーション、慈善イベント、パフォーマンス、その他の学際的なプログラムにも受け継がれています。
また、Paceはコラボレーションの精神においても高い評価を得ており、世界各地の小規模および中規模ギャラリーとともに何人かのアーティストの共同代表を務めています。2025年には、こうしたコミュニティ精神のもと、グローバル規模でセカンダリー・マーケットでの販売を行うブティック・ギャラリー、Pace Di Donna Schraderのパートナーとなりました。この取り組みにより、長年にわたるコレクション形成の伝統を継続しつつ、セカンダリー・マーケットでの活動や歴史的作品の管理において新たな道を切り開いています。
現在、Pace は世界に9つの拠点を構えており、ニューヨーク・マンハッタンには、8階建てのメインギャラリー(540 West 25th Street)と、チェルシー地区に位置するおよそ8,000平方フィートのギャラリー(510 West 25th Street)の2つを設けていま す。また、トライベッカには、125 Newburyという実験的なプロジェクトスペースを設けています。この名称は、ボストンのニューベリー通りにあったギャラリー創設時の住所に由来しています。アーニー・グリムシャーが指揮する展覧会プログラムのもと、125 Newburyでは新進アーティスト を紹介する革新的な展示に加え、歴史的アーティストの制作を特定の側面や時期から探求する展示が行われています。ニューヨークの美術界における Paceの歴史は、1963 年に East 57th Streetに最初のスペースを開設したことに始ま りました。
また、Paceはおよそ60年にわたりカリフォルニアでも活動しており、2022年にはロサンゼルスに西海岸の旗艦ギャラリーを開設しました。ヨーロッパではロンドン、ジュネーブ、ベルリンに拠点を持ち、2025年にはベルリンに新たなギャラリースペースを設立しています。さらに、アジアにおいてもいち早く大規模な展開を行なったギャラリーの一つであり、2008年に北京の活気ある798 芸術区にギャラリーを開設したことを皮切り に、現在はソウルと東京にギャラリーを構え、さらには北京と香港にもオフィスを所有しています。
















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