【KEISUKEYOSHIDA】25SS Collection Show

吉田圭佑にとってファッションデザインとは、停滞するムードに風穴を穿つような刺激や新鮮さの追求であり続けてきた。半年ごとに変化する感情の機微と現実世界との接点を掬い取って描き出した人間像に基づくシェイプの創造を重ねてきたが、2024AWの発表を終えた吉田の心に浮かび上がってきたのは、KEISUKEYOSHIDAが表現する人間像がもはや容易く変化しないという予感だった。

清新なストーリーはたしかに硬直した風景を転覆させる力を秘めているが、それと引き換えに日常に遍在する鋭敏な感性や繊細な美意識は失われる。2025SSでは、揺れ動く感情や心象風景ではなく、吉田自身の身体感覚に直接結びつく衣服、すなわちテーラードジャケットやチェスターコート、ファティーグジャケット、スウィングトップ、フーデッドパーカーといった所謂メンズウェアの定石かつ過去のKEISUKEYOSHIDAにとってもシンボリックなアイテムをコレクションの起点とし、その奥行きに眼を向けた。それは本質の探求から衣服の造形へと辿り着くのではなく、既に日常生活のなかに在る衣服のなかに本質を探求する試みとも言い換えられる。

極めて普通であることの美しさを湛えた数着のテーラードジャケットをボディにかけて眺めていた吉田の手は、型を崩さずに新たな貌を与える手段として表地と裏地の間に鋏を入れ、体を滑り込ませる空間を作り出す。オーセンティックなテーラードジャケットの型を保った外側に対し裏地がボディラインに張り付く内側が艶かしく、2023AW以降のコレクションで醸成されてきた淑女と少年が同居したような妖しい緊張感を孕んだエレガンスを想起させた。裏地をキュプラとビスコースの混紡素材やシルクサテン、ナイロンなどの素材に置き換えレングスを変化させると、外側の型は不変でありながら内側の表情が異なって見えた。生物の細胞分裂にも似た固定と流動のアイディアをさらに拡張し、本来衣服の内側で身体に寄り添うはずの素材を外側の造形へと転用。冗漫なシェイピングやドレーピングを排した普遍的な型のシャツやトラウザーズ、ワンピースやジャンプスーツを展開した。

柔らかく滑らかな生地に箔プリントやヴィンテージファブリック調の花柄をのせると、より立体的で翳りを帯びた艶っぽさが立ち上がった。田中大資(tanakadaisuke)とのコラボレーションで制作したビジューは、繊細さと力強さのアンビバレントな混淆とその奥に潜む狂気を象って映し出
す。モチーフであるタンポポは、「どこにでもあるはずがいざ探してみると手に入らないもの」のメタファーになっている。

ナラティブをはじまりとした創作は誠実ではあるが、現実世界との隔絶というジレンマに陥ることもある。現代社会における“普通(norm)”の考察によって私小説から逸脱する冒険。つづれ織になったモード史において確立されてきたエレガンスとの対話を通じて見出された裏地の内奥にひろがるファンタジーは、吉田のオリジンを匂わせながらも大きな歴史の物語へと開かれ、人々の日常にまで接続されている。

Designer: Keisuke Yoshida

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